ベアーズ誇れる準優勝 今年最後の熱闘は火の国に軍配
10/1 埼玉武蔵ヒートベアーズ 1-6 火の国サラマンダーズ(坊っちゃんスタジアム)
胸を張って埼玉へ帰ろう。ファンからの声が飛ぶ。今年最後の戦い。清田育宏の花道。このチームでの最後の試合は、1-6で王者火の国に完敗した。しかし初出場での準優勝。盛大な応援合戦を繰り広げたファンとともに手に入れた勲章は、大きな価値ある一歩だった。
独立リーグ日本一を決めるグランドチャンピオンシップ決勝戦は、王者火の国サラマンダーズに挑む一戦。大舞台のマウンドを任されたのは、当然大黒柱の小野寺賢人だった。BC選抜戦に選ばれて移動を繰り返したり、抑えの準備をしたりと過密日程ではあるが、チームの勝利へ燃やす闘志は誰にも負けない。
先手を取りたい先攻のベアーズ。相手はWエースの一角・10勝投手の宮澤怜士だ。この日は切り込み隊長伊藤康人の代わりに1番に髙島輝一朗が入ったが、宮澤の前に、髙島、青木玲磨、金子功児と三者凡退を喫する。対する立ち上がりの小野寺は、慎重なピッチングもあってか晴樹に四球、アルバレスにヒットで一死1,2塁のピンチを作り、元ヤクルト・中山翔太のタイムリーで火の国に先制を許してしまう。
0-1とリードされたベアーズが、すぐに追いつく。2回表はキャプテン根井大輝がチーム初ヒットで出塁。続く清田育宏がセンターへのタイムリー2塁打で根井が生還。1-1の同点となった。なおも片山博視が四球、町田隼乙がヒットで一死満塁とチャンスが続くが、あと1本が出ず同点止まりだった。
追いついてもらった小野寺は、ランナーを出しながらも粘りのピッチング。3回裏には無死1、3塁も凌いだ。しかしこのあと攻撃陣が、宮澤からなかなかヒットを奪えない。投手戦の様相にも見えたが、小野寺には確実に疲労の色がある。ついに5回裏、高山のピッチャー強襲ヒットを皮切りに、晴樹のヒット、アルバレスの死球で一死満塁のピンチとなった。迎えるは長打力のある中山。鋭いスイングで弾き返した打球はレフトへ飛び、走者一掃のタイムリー二塁打となった。1-4と火の国のリードは3点に変わる。
6回から火の国の継投はWエースのもう一人、下川智隆が登板した。コントロールよく速球も低めに決まる下川に、ベアーズ打線はヒットが打てず完璧なリリーフを許す。1-4のまま小野寺は投げ続け、球数はついに130球に達した。
8回裏、ベアーズは小野寺に代えて、変則左腕の19歳・加納辰也を起用。左の仲村を打ち取ったが、瀬井にヒットを打たれたところでスイッチ。次にマウンドに上がったのはサイドハンドの石田駿だった。この場面でランナー瀬井が盗塁し、山本がタイムリー。火の国が1点を追加した。さらに代走の松本がまた盗塁し、牽制悪送球で三塁へ。高山のタイムリーでランナー帰って1-6。火の国のリードは5点と広がった。
9回表、先頭は阪口竜暉に代わる三浦豊だったが空振り三振。ここで火の国は、マウンドにクローザーで元広島の山口翔を送った。盤石の投手陣を崩したいところだが、根井はセンターフライ。そして清田に最後の打席が回る。きわどいコースを見送り、四球で出塁すると、代走として山本力哉が送られた。清田はそのまま一塁コーチャーに立つ。片山博視が打席に立ったが、投球がワンバウンドになった間に山本が盗塁企図し、捕手の送球でタッチアウト。あえなく試合終了となった。
投打に勝った火の国サラマンダーズが、独立リーググランドチャンピオンシップの二連覇を飾った。日本一には届かなかったが、地区CS栃木戦、リーグCS信濃戦と激戦を戦い、ハードスケジュールの中を松山へ飛び、強敵徳島に勝って決勝へ進んだベアーズ。球団始まって以来の快挙を、彼らは成し遂げた。一人一人の選手の成長があってこそ、ファンの強力な後押しがあってこそ、清田育宏と野球を出来る時間が1ヶ月増え、想像もしなかった大舞台を自分たちのものとした。史上最大の応援と選手たちの戦いぶりを、皆忘れることはないだろう。
試合後には、何度も清田コールが起き、清田がそれに応える。また、「ありがとう小野寺」のコールも起き、エースが感極まる姿も見られた。苦しい投手事情の中、彼がどれだけの決意でマウンドに立ち続けたか、皆よく分かっている。ほかの選手たちにも首脳陣、スタッフにも、ただただ労いと感謝の言葉が投げかけられた。
準優勝チームとしてセレモニーを終えると、ファンの前で清田の胴上げも行われた。地響きのような応援の響いた松山坊っちゃんスタジアムにも静寂が訪れ、熱熊軍団も埼玉へと帰路に就く。今年独立リーグを一番長く戦った2チームが、松山を後にした。
根井大輝(キャプテン)
「1年間長いようで短く、あっという間のシーズンでした。結果として、地区優勝、BCL優勝、独立リーグ準優勝という結果でしたが、やっぱり最後は勝ってみんなで笑って終わりたかったなというのが今の気持ちです。でも、この経験が必ず今後に生きてくるなと感じています。
チームとしては試合を重ねていくにつれて勝負どころに強く、勢いのあるチームになっていたと思います。
1年間キャプテンを務めさせていただいて、キャプテンらしいことができたか分かりませんが、若くて個性豊かな選手の先頭に立つことができて、とても良い経験ができたとともに、僕自身成長することができたなと思っています。1年間応援ありがとうございました」
小野寺賢人(7回130球4失点 被安打8 奪三振7 四死球2)
「昨日も作ってはいましたが、芦田が頭部死球とかでもなければ出なかったです。体は正直限界ですね。やり切りました。自分では最後まで行くって言ってましたが…ああ130球でしたか。最初の入りはストレートの走りを見て、と思ってましたが打たれましたね。(相手が強かったというより自分の出来の問題?)いや相手が強かったです。相手の研究は町田に任せてたんですけど、組み立て通りの球もなかなか投げられませんでした。
(「ありがとう小野寺」コールに涙した)あれはやばかったです。感極まるくらい今年はやりきったし、すごくいいチームでした。応援はすごく響きますね。(相手も応援がすごかったと思うがマウンドで気にならなかったか)そうだったんですかね?集中してて全然聞こえなかったです。
宮澤投手は話したのは昨日が初めてだったんですが、1つ上で大学では同じリーグで対戦もしてました。球は速いけどコントロールが、ってイメージでしたが、良かったですね。強かったです。(後輩に伝えたいことは?)BCリーグでトップのイニング数投げて、タイトル獲って一応150投げてもこれでも難しいっていう世界なんだぞと。可愛い後輩たちなので。(次のエースはこいつだ、というような投手は?)ベアーズでですか?…考えたことないですね。逆になんか僕が霞むみたいなのが出てきてくれればいいですね。やってみろって感じです」
町田隼乙(正捕手)
「火の国戦は相手打線を警戒して後手に回ってしまった部分があったと思います。個人的には盗塁をされ過ぎてしまって、自分の力不足を改めて痛感しました。火の国は足を使っての攻撃が多いという情報がある中で、そういう攻撃を好き放題やられてしまったのが敗因でもあると思います。
小野寺さんは疲れていると思うのですが、しっかり要所をしめて、やっぱり凄いなって思わされました(笑 )
一発勝負、凄く楽しめました!初めて戦うチームとはキャッチャーから近くで見れて本当に良い経験をさせていただけました。
今年1年間はチームとしては優勝してグランドチャンピオンシップの決勝戦まで来れて良い経験ができたこと、個人としては自分の技術不足でNPBへ向けてまだまだだなと思いました。チームの要になれていたか分かりませんが、今年はミスしても誰がカバーして団結力のあるチームでした!」
清田育宏(試合後のインタビュー)
ー最後の試合を終えた今の気持ちは
「引退試合とかもしてもらいましたが、そのときまだ試合があるのは分かっていたので、あまり実感はなかったんですけど、今日はこう、最後の打席とかって思いながらやったら、やっぱりこみ上げるものがありましたし、その中でもみんなとこの最後の最後まで出来たっていうのがすごい良かったなと思います」
ー地区CSからリーグCSとタフな試合が続いていた。体がつらかったのでは
「まあ僕なんかはDHで出たりとかしてたんで、そこまでは。やっぱり人数も少ない中、金子も町田も上田も伊藤もみんなそうですし、痛いところありながら頑張ってくれたんでね。ほんとにすごいなと思いますよ、この人数でここまで来られたって。投手陣もね、あのタフな日程をみんなで勝ち抜いて、投げ抜いてくれたんで。一年間でみんなの成長がすごい見られたと思います」
ー野手は指導やアドバイスを受ける場面も多かった。特に成長を感じた選手は
「やっぱり伊藤がセンターにいてくれて。『お前に任すよ』って言ってきたので。金子も上田もね。最初はなんかかっこつけたようなプレーが目立ってたんですけど、最後はしっかりやってくれた。一番はやっぱり伊藤、金子、上田じゃないですかね」
ー独立リーグを経験して
「独立リーグはNPBとは全然違う。環境も違いますし、逆に言えばNPBが特殊過ぎるというか、あそこが普通だと僕も思っちゃってて。この独立リーグを経験出来て、打った球は自分で拾う、ネットを出す、片付ける、グラウンド整備をする、そういうのをもう一度、これが普通だと分からせてもらえた場所というか。あと野球の楽しさをもう一度、思い出させてもらえた場所ですね」
ー最後の試合でタイムリーヒットも打った
「右中間左中間にライナーを打つっていうのは、常日頃バッティング練習から考えてることなので。それが出ました。昨日も左中間に出てた。あんまり僕初球から打つタイプじゃないんですけど、悔いは残したくないなって。初球からいこうと思って。打てて良かったです。最後の打席は(山口投手が)ストレートで勝負してくれてたんですけど、フォアボール。すいません、って謝ってくれたけど、いやもう全然。僕らしいです。フォアボールって僕は価値あるものだと思ってるので。三振だけはしないようにってずっと思ってました」
―今年印象深かった試合、打席は
「ジャイアンツ三軍との試合でレフトスタンドにホームラン打ったんですけど、それはホームランを狙ってホームラン打ったんですよ。でもそのあとから打撃が全然良くない。あ、やっぱりホームランバッターじゃないやつがホームラン打つとダメなんだなって、それは場所がNPBだろうが独立だろうが関係ないんだなって感じました。右方向のホームランは、全然意識してない中のホームランなんで、バッティングは変わらないんです。普段打たないので、レフトを意識しちゃうと、体の開きが早くなって打てなくなる。右方向に打ってるときは抑えられてるから打てる。ずっとNPBで分かってたことなんですけど。このレベルならホームラン余裕で10本打てるって思ってたんですけど打てなかったです。余裕で打てなかったです(笑)」
ー今後に向けて
「やっぱり野球が好きで、野球から離れていたときにも子供に野球を教えてたんですけど、それももう一回、野球人口を減らさないようにするためにも、野球に恩返し出来るように何かはしたいと思いがあります。それにこうして1年間こういう選手たちとも関わったんで、何かうまく関われたらいいなというのもありますし。今後はまだ全然決まってないんですけど、頑張りたいと思います」
(記事: HISATO)